民主党年金改革案、どこをどう改革するのか?(その7)
★目標運用利回りにどれほど意味があるのか?
長妻昭厚労相が2月26日、10年度からの5年間の公的年金の運用利回りに目標を設定しないことを決めたのだ、と日経新聞2月27日号が伝えていた。
長妻昭厚労相、予想に反して慎重かつ保守的な判断だったと評価したい。
そもそも資産運用で「目標運用利回り」、あればあったで大凡の資産配分の検証材料、将来のインフレ劣化を回避する均衡点を探る、それ以上もそれ以下にも価値はない。
「目標見送りによって資産構成の見直しは困難になり、現状維持を余儀なくされる」と日経新聞2月27日号はいささか大げさに報じる。これまでも目標利回りを外れたからといってはそのたびに資産構成を変えてきたのだろうか?
★そもそもなんのための資産運用なのか?
運用思想も定かでない巨額の公的年金の運用である。
リスクをどこまで国家意思として許容できるのかの議論もなく、拙速に「目標運用利回り」を決めたところで何の意味があるのか?
根源の論議を望みたい。
★2010年3月のこの時点の判断としては、この長妻大臣の判断には伏線がある。
1月22日に開催された「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の在り方に関する検討会」(以下「年金資産運用検討会」)というエライ長い名前の会議では2つの議論が拮抗していた。
★ひとつは賃金上昇に連動する年金給付だから「賃金上昇プラスアルファー」派、もう他方は金融資本市場の実勢に即した適切な利回り目標、「長期金利プラスアルファー」派、この2派である。
★まずは、現状の公的年金の運用を簡単にみておこう。公的年金の資産運用の資産配分は、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期資産5%。資産毎の期待収益率の合計平均は3.37%。資産全体のリスク(標準偏差)は5.55%。これを公的年金の基本ポートフォリオという。資産規模は123.8兆円で公的年金の運用資産として世界有数である。
★公的年金の「長期の運用利回りの名目値」は、2004年改正では「物価上昇率1%+賃金上昇率2.1%=運用利回り3.2%」であった。2009年度財政検証では、3.2%は改められ、2020年以降「長期金利3.7%+分散投資効果0.4%=名目利回り4.1%」とした。
★この4.1%から賃金上昇率2.5%を引いた1.6%が賃金上昇率を上回る水準が「実質的な運用利回り」とする。要するに、年金額が賃金上昇相当分上昇でもお釣がでる超過リターンということになる。
★しばし資産運用という不思議な作用がもたらすはかない希望、夢と幻を語っているわけだ。この夢と幻を追い求めたいのが、年金は賃金にスライドすることを信じて疑わない「賃金上昇プラスアルファー」派である。
あたかも、年金運用の成功が制度持続可能性を担保しているかのようである。
本当にそうだろうか?
★しかし、現実の公的年金の運用実績は、厳しいものがある。
H16年度3.39%
H17年度9.88%
H18年度3.7%
H19年度▲4.59%
H20年度▲7.57%
公的年金の過去5年間の運用平均は0.77%である。
これなら、運用手数料を数百億円も払わずとも、元本確保型の大口定期預金か生保一般勘定で運用していてもそんなに変わらなかったと思いたくなる。一度決めた資産配分構成、しかも100兆円強規模の資産である。そんなに簡単に変えられないのも実際である。
★確定給付企業年金、確定拠出年金(DC)の運用もまったく冴えないのが現状である。低調な公的年金の資産運用実績だけを笑うことはできない。この6年間、賃金上昇もなく賃金下降が推移してきたので定期預金並みの収益率でも「賃金上昇プラスアルファー」派にとっては、「暫くはこれでいいのだ!」と言い訳の条件はある。
★しかし、将来の保険料上昇を抑えるための資産運用というお題目からすれば、ほとんどその目的に寄与してきたとことはない。しかも、現行年金法では2017年以降は保険料18.3%固定、民主党年金改革案でも15%固定である。保険料引き上げ回避のための資産運用というロジックはややインパクトが弱くなった。それでも国家年金の巨額資金の市場運用がなぜ必要なのか?
★実はもっとも重要なことは、この国の年金資産運用のリスクである。
現在の基本ポートフォリオ全体のリスクは5.55%。
まさか「行け行けゴーゴーゴー」の語呂合わせではないはず。現状の運用損失はこのリスクの何倍にまで達しているのか?
これは通常でも許容できる範囲なのか?
国家はどこまでのリスクなら国民負担を求めずに許容できるのか?
基本的なことは、常に時の政権内部で議論してきたことはない。
★2009年夏、ここで政権交代。
ようやくにして、正気な専門家を集めた「年金資産運用検討会」を開き、まともな議論ができる雰囲気にはなったようだ。
これまでのように役人の作文を御用学者たちが「御尤も」と合意して、なんとなく過ぎてきた公的年金の資産運用というわけには行かなくなった。
長妻昭厚労相の「一寸、待ってね!資産運用」の動機はそこにあるようだ。
★「長期金利プラスアルファー」派の登場である。
09年12月24日の二回目の「年金資産運用検討会」で本格的な議論が噴出していた。まさに「御尤も」と傾聴に値するまともな意見が幾つかあるので紹介したい。
併せてニッポンの年金資産の行方を考えてみたい。(この稿続く)
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