★トヨタ自動車の赤字転落は、クリスマス・イブの12月24日、大企業といわれる会社員にも来るべきものが来る、と不吉な予感をもたらしている。年末の挨拶まわり、お会いした大企業の中間管理職、誰しも「来年は自分がどうなっているのか?まったく予測がたたない」と異口同音に言う。某大手ITソリューション企業の幹部氏曰く、「派遣・契約・パート社員の解雇。次は正社員の賃金カット、一時帰休、要因削減、希望退職と進むのが定石。来年の1月から3月までが会社としての決断の瀬戸際」。今の世界、大小の規模に関係なく、正規も非正規もへだたりなく、会社という魔物は安住の地ではないのである。けれども、見切り千両、早々と会社を見限り、自分なりに歩みだした人もいるのが、今の日本の多様性でもある。
★この2週間で2人の50代の中高年に会った。1人は元リストラ社員であった人、もう一人は心ひそかに会社からの離別を準備している。この2人を見ていると、日本のサラリーマンも変わったと思う。大会社の社員であっても、今の会社を見切る、違う仕事に転進する、それはそれで内心切ない思いはあるのであろうが、人生の運否天賦を素直に受け容れている。そして、挫けず、働きがいと暮しがいを必死に求めている。
★金山さん(仮名)は、現在、京浜地区でタクシードライバーとして働いている。年の頃、50代なかば。元々は経営破綻した生命保険会社の営業職であった。
―お忙しいですか?
「今は暮れだから、結構、忙しいよ」「昨日はほぼ20時間で約4万円の水揚げ」
―タクシーの空車が目立つようですが・・・
「今の営業所でも乗り手がいないままの車が10台ぐらいある。外の人にはわからないけれど、結構、この業界人手不足なのだよ」「新人が来ても、長続きしない、直ぐやめてしまう」
―前の生保の仕事から較べてもしょうがないでしょうが、何が一番しんどいですか?
「それはしんどいよ。ほぼ24時間に近い仕事だから」「今は、勤務中のタバコもだめ、深酒もできない。翌朝のアルコールチェックがあってね」
「最近は、変な客が多い。たいしてお金を持っているとも思えないのに、コンビニまでタクシー、しばらく待機してくれと言って、マンガや雑誌を立ち読みだよ」「昼間はお年寄りが多い。自家用車を手放して、タクシーの方が便利で無駄なお金がかからないと言うのは嬉しいけど、結構、わがままで、あっちに行け、こっちに行けと、それで100円まけろだから、まいっちゃうよ」
―このまま65歳ぐらいまで続けますか?
「他に良い仕事があるわけではない。健康であるなら、65歳まで続けられる仕事であることは確かだから。会社の上下関係などわずらわしいこともないし、タクシードライバー、毎日の稼ぎが収入に直結している点では大変分かりやすい仕事だと思うよ」
★矢部さん(仮名)は、50歳。某大手機械メーカーの人事課長である。もし、会社で人員整理がはじまったら、真っ先に希望退職に応じるつもりだそうだ。早期退職してなにをやるつもりなのか?
―どこかあてでもあるのですか?
「故郷の村に帰る。ともに80歳近い老いた両親が二人だけで畑と田んぼをやりながら生きている。年収は200万円いくかいかないかぐらい。しかし、食べていくだけならなんとかなるはず」
―ご家族は賛成ですか?
「もちろん女房は反対。今、女房は仕事があるから、田舎暮らしは無理だそうだ。行くならあなた単身赴任してときた」「子供は上がもう働いているし、下は高校生。もう、自分達でなんとかやることを考える年だよ」「親の生き方の変化が、子供にどう影響するかはわからない。しかし、突然、解雇されて都会で彷徨っている親父をみているより、田舎で貧しくとも元気に働いている親父の姿の方がいいにきまっている」
―ただ故郷の両親の元に帰るという理由の他になにか夢のようなものがあるのではないですか?
「ご明察。自分が生まれ育った村。このまま年寄りだけの村にさせたくない。有期野菜作りや果樹や、美味しい米作り。何かできそうな気がしている。そのうち若い人も農業に目覚める時が来る時代があるとも思う」
―今は何か準備していますか?
「月に数回、故郷に帰って、親父から農業を教わっているところ。奥が深いよ。今の人事屋の仕事と違って、カタチがあって、結果と成果が直ぐに自分にかえってくるところが良いよ」
会社で働くことも10年、20年と経てば、それはそれなりに昇格や報酬という形で成果は見える。しかし、所詮、自分の運命を自分で統御できない。家族の幸せも、自分のささやかな成功も、すべて会社の行く末に左右される。まだ若い二人の生き方に感じるのは、それぞれ会社という魔物に翻弄されながらも、自分らしく生きたい、そのためにはなにが大切なのかを心強くもっていることである。
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